キユーピー株式会社 データ漏えい防止プロジェクト事例
顧客概要
キユーピー株式会社(Kewpie Corporation)は、1919年の創業以来、マヨネーズ・ドレッシングをはじめとする調味料および各種食品を主力とする、日本を代表する食品メーカーです。家庭用市場のみならず、業務用・加工用など幅広い領域で事業を展開し、日本国内外に複数の生産拠点および販売拠点を有しています。
グローバル展開やサプライチェーン連携の高度化に伴い、製品レシピや製造条件、品質管理、マーケティング企画に関わる電子データが大量に生成・流通しており、こうした情報資産の保護は、品質およびブランドを支えるうえで極めて重要な要素となっています。
事業および情報セキュリティの背景
キユーピーの競争力は、以下のような多様な情報資産に支えられています。
| 情報カテゴリ | 主な内容 |
|---|---|
| 製品レシピ・製造条件 | 製品配合、製造条件、試験条件などのコア技術情報 |
| 品質・原材料情報 | 原材料選定基準、品質規格、検査結果、是正措置記録 |
| 研究開発・マーケティング | 新製品開発の官能評価、試作結果、市場調査・企画資料 |
| 生産・設備関連 | 生産計画、工程記録、設備パラメータ、トラブル分析報告 |
| ビジネス文書・取引情報 | 顧客・パートナーとの契約、提案書、見積書、取引条件 |
これらは長年の蓄積により形成された知的財産である一方、研究開発・品質保証・生産・調達・営業など複数部門・複数拠点間で継続的に共有・活用される必要がある情報でもあります。そのため、社内の端末やファイルサーバ、メール、コラボレーションツールなど、多様な経路で日常的にやり取りされています。
従来より、ネットワーク・境界型のセキュリティ対策(ファイアウォール、侵入防御等)は整備されていましたが、
エンドポイント端末上でのデータ利用・外部送信の挙動については、きめ細かな制御や追跡が十分とは言えず、次のような課題が顕在化していました。
- コア情報資産に対するアクセス権限の最小化と統一的な管理が不十分である。
- 顧客・パートナー関連情報を含むデータの外部送信について、可視化とコンプライアンス確保が課題となっている。
- 拠点間・組織横断のデータ連携において、「二次漏えい」リスクへの備えが不十分である。
- 日本国内外の法規制・ガイドラインに即した機密情報・個人情報保護に関する内部統制を、より一層強化する必要がある。
こうした背景を踏まえ、キユーピーは Ping32 統合エンドポイントデータセキュリティプラットフォームを導入し、既存の業務プロセスやシステム構成を大きく変えることなく、「事前防止・事中制御・事後追跡」を一体的に実現するデータ漏えい防止体制の構築に着手しました。
主なリスクと課題の整理
プロジェクトの立ち上げにあたり、研究開発部門、品質保証部門、生産部門、情報システム部門へのヒアリングおよび現場調査を実施し、代表的なリスクシナリオを次のように整理しました。
| リスク領域 | 典型的な状況 |
|---|---|
| 技術文書の保護 | レシピ・仕様書・試験記録が平文のまま保存され、コピーや持ち出しに制限がない。 |
| 外部送信 | メールやオンラインストレージなど複数チャネルでファイルが送信されるが、統一した承認・監査がない。 |
| 可搬媒体・社外利用 | USB メモリや外付け HDD によるデータ受け渡しや、社外からのアクセスを統合的に管理できていない。 |
| 追跡性・監査 | 「誰が・いつ・どの端末から・どのファイルに・どう操作したか」を横断的に追跡しづらい。 |
製造レシピ、試験記録、多言語版仕様書などが端末ローカルや共有フォルダ上で平文のまま保存され、コピーや移動、外部媒体への書き出しに実質的な制限がありませんでした。拠点・役割ごとのアクセス範囲も統一されたポリシーに基づいておらず、監査証跡も十分ではありませんでした。
多様なチャネルによる無秩序な外部送信メール、インスタントメッセージ、オンラインストレージ等による外部とのファイル授受は業務上不可欠ですが、統一的な承認フローやリスク評価プロセスが存在せず、ブラウザからのアップロードや外部コラボレーションサービスへの投稿において、機密情報を含むかどうかをシステム的に把握・制御できていませんでした。
可搬媒体・社外利用に伴う情報持ち出しリスク工場とオフィス間のデータ受け渡しに USB メモリや外付け HDD が用いられるケースがあり、機器の紛失・盗難時のリスクが高いことが懸念されました。また、出張や在宅勤務など社外から社内資料にアクセスする場面で、社内ネットワークから切り離された状態での利用を統合的に管理できていない点も課題でした。
データライフサイクル全体にわたる追跡性の不足情報漏えいが疑われる事象が発生した場合でも、「誰が・いつ・どの端末から・どのファイルに対して・どのような操作を行ったか」を横断的に追跡することが難しい状況でした。一部の機密データは部門・拠点ごとに分散しており、統一された分類・ラベリングに基づく管理が行われていない点も課題となっていました。
これらの課題に対し、本プロジェクトでは「
エンドポイントを制御点とし、文書および機密データを保護対象とする」技術アプローチを採用し、制度・運用面の整備とあわせて、継続的に運用可能なデータ漏えい防止体制の構築を目指しました。
プロジェクト目標
顧客ニーズとリスク分析の結果、本プロジェクトでは次の4点を主な目標としました。
- コア情報資産の分級保護とアクセスコントロール: 重要文書について、業務影響を最小限に抑えつつ、信頼できる環境外では閲覧できない状態を実現する。
- データ対外送信行為の統合管理: 複数チャネルにまたがる外部送信行為を可視化・統制し、承認フローやホワイトリストを導入する。
- 可搬媒体および社外利用時のリスク低減: USB メモリ等の利用を許可デバイス・暗号化・利用目的の明確化により管理し、社外環境下での利用を制御可能とする。
- データ操作履歴の統合的な監査基盤の構築: 文書ライフサイクル全体を記録し、インシデント発生時の迅速な原因究明と責任所在の明確化を可能にする。
Ping32 によるデータ漏えい防止ソリューション
5.1 コア文書の透過的暗号化とアクセス制御研究開発・品質保証などの部門で扱われるレシピ文書、仕様書、製造条件記録等に対して、Ping32 の透過的文書暗号化機能を適用しました。指定された業務端末上で認可されたオフィスソフトウェア等を用いて文書を作成・編集すると、自動的に暗号化が適用され、ユーザーの操作を変更することなく保護が行われます。
暗号化された文書は、「信頼された環境」として定義された端末および適切な権限を持つユーザーのみが平文で閲覧可能です。ファイルが許可されていないデバイスにコピーされた場合や、想定外の経路で持ち出された場合には、内容は暗号化された状態のままとなります。
さらに、「セキュリティドメイン」と「機密区分」を組み合わせることで、部門・職務ごとにアクセス範囲を細かく設定しています。レシピ開発グループは自グループおよび特定の共有ドメイン内の文書にアクセス可能とし、一方で一般的な生産管理ポジションは業務遂行に必要な作業指示書等にアクセスを限定し、完全なレシピや過去試験データにはアクセスできないようにしています。
一部の管理職など、暗号化文書の閲覧は必要であるものの、自身が作成する日常的な文書までは暗号化対象としたくない利用者に対しては、「半透過暗号」ポリシーを適用し、利便性とのバランスを確保しています。
5.2 データ外部送信の制御と安全な対外コミュニケーションレシピ確認、表示・ラベル審査、OEM 先との協業など、外部との情報連携ニーズを踏まえ、業務継続性を損なわない範囲で外部送信行為を段階的に制御しています。メール、インスタントメッセージ、ブラウザ経由のアップロード、オンラインストレージ同期など複数チャネルのファイル送信について、ファイル種別・機密区分・送信先等に応じてポリシーを適用し、「許可」「警告」「承認後許可」「ブロック」といったアクションを自動的に選択します。
明文での提出が避けられない資料については、事前に定義された承認フローに則り、申請・承認・一時的な復号または安全な外部送信を実施し、その一連のプロセスをログとして保管しています。長期的に外部パートナーへ提供する必要がある重要資料については、「暗号化パッケージ」として配布し、閲覧有効期限・閲覧回数・印刷やコピー、スクリーンショットの可否などを設定することで、二次漏えいリスクを削減しています。
これらすべての外部送信行為に対し、送信されたファイルおよび関連ログが記録され、監査や後日の検証に活用できるようになっています。
5.3 可搬媒体および端末デバイスの統合管理工場およびオフィスでの実運用を踏まえ、可搬媒体および外部デバイスの利用を統一ルールのもとで管理しています。USB メモリなどの可搬媒体については、「許可されたデバイス」と「未許可デバイス」を明確に区別し、登録済みの企業支給メディアのみ接続可能とするとともに、読み取り専用・読み書き可・使用禁止などの権限を細かく設定しています。
許可された USB メモリには暗号化を適用し、社内ネットワーク上の信頼された端末では透過的に利用できる一方、環境外では内容を直接参照できないようにすることで、デバイス紛失時のリスクを低減しています。また、スマートフォン、モバイル Wi-Fi、外付けネットワークアダプタなど通信関連デバイスに対しても制御ポリシーを適用し、想定外の経路によるデータの持ち出しを抑制しています。
出張や在宅勤務といった離席・離網環境では、「オフラインポリシー」と「利用期限の承認」機能を組み合わせ、一定期間のみ暗号化文書の利用を認め、それを超えた場合には自動的にアクセス権限が失効するように設定しています。
5.4 機密情報の自動識別と精密な保護ファイルパスや拡張子といった表面的な条件だけではなく、内容に基づき機密度を判断するため、Ping32 のコンテンツ認識機能を活用しています。キーワード、正規表現、ファイルフィンガープリントなどを組み合わせ、端末および共有ストレージ上に分散している文書の中から、レシピ名称、特定の製造条件、ロット番号ルールなどを含む可能性の高いファイルをスキャン・検出します。
高い機密レベルと判定されたファイルについては、自動的に暗号化対象としたり、外部送信・印刷等の操作に追加の制限・承認を課すことが可能です。ユーザーがインスタントメッセージやメール、ブラウザアップロード、オンラインストレージなどを通じて当該ファイルを送信しようとする場合、あらかじめ定めたポリシーに基づき、警告・ブロック・承認要求などを実行します。
また、画面キャプチャや画像を介して情報を持ち出そうとするケースに対しては、スクリーンショットの制御および必要に応じた OCR を組み合わせることで、ポリシーの迂回を抑制しています。
5.5 監査・追跡および運用支援インシデント分析やコンプライアンス監査に対応するため、Ping32 により統合的な監査・検索基盤を構築しました。重要端末におけるファイル操作、外部送信、可搬媒体の利用、メール送受信、インスタントメッセージでのファイル転送などのイベントを一元的に記録・集約し、キーワード、期間、ユーザー、端末等の条件で検索・絞り込みを行うことで、特定のインシデントに関連するファイルや操作履歴を短時間で把握できるようにしています。
併せて、リモートサポートやソフトウェア配布、問い合わせ管理などの運用機能を活用し、情報システム部門によるポリシー更新や障害対応の負荷を軽減しています。
導入プロセスと運用状況の概要
キユーピーでは、生産拠点や事業拠点が複数存在し、利用している業務システムも多岐にわたることから、「段階的・領域別・ロール別」という方針で導入を進めました。
パイロットフェーズ:一部の研究開発部門および品質保証部門を対象に、限られた端末でポリシー検証を実施しました。レシピ編集、データ分析、レポート作成といった日常業務に与える影響を確認し、現場からのフィードバックに基づき設定のチューニングを行いました。
段階的な展開フェーズ:パイロットでの安定稼働を確認したのち、組織単位・拠点単位で対象を拡大しました。初期は比較的緩やかなポリシーを適用し、ユーザーの運用定着状況を見ながら、段階的に制御レベルを引き上げていく方式を採用しました。
制度・運用ルールの定着フェーズ:文書の分類・機密区分、外部送信の承認フロー、オフライン利用、可搬媒体の利用基準などを社内の情報セキュリティ規程に正式に組み込み、教育や操作手順書を通じて各部門に浸透させました。
これらの取り組みにより、管理コンソール上の可視化レポートを通じて、情報システム部門は各部門・各拠点のデータセキュリティ状況およびポリシー適用状況を把握できるようになり、継続的な運用改善に活用しています。
導入効果
本プロジェクトの導入後、キユーピーでは以下のような効果が確認されています(社内からのフィードバックおよび運用状況に基づく)。
- コアレシピおよび製造技術情報の保護強化: 重要文書に対して暗号化とアクセス制御が一元的に適用され、端末紛失や誤送信、誤操作等による情報漏えいリスクが大幅に低減しました。
- データ対外送信行為の可視化と統制の向上: レシピ、品質情報、営業情報などを含む外部送信は原則として承認フローに組み込まれ、重要な送信行為には必ずログとファイルのバックアップが残るようになりました。
- 可搬媒体利用のルール化・標準化: 「許可された USB メモリ」という枠組みが全社的に整備され、個人所有のデバイスや未登録デバイスの利用が大きく減少しました。その結果、工場・オフィスをまたぐデータ持ち出し経路が整理され、リスク管理がしやすくなりました。
- インシデント対応の迅速化: 異常な外部送信やポリシー違反が検知された場合、統合ログから関連端末・ユーザー・ファイルを迅速に特定できるようになり、原因究明に要する時間が短縮されました。
- 既存 IT 環境との高い親和性: 透過的暗号化やゲートウェイでの復号機構により、既存の業務システムや端末環境を大きく改修することなく導入が可能となり、多拠点・多システム環境においても現実的なコストで展開・運用することができています。
今後の展望
エンドポイントにおけるデータ漏えい防止の基盤が安定して稼働していることを踏まえ、今後、キユーピーと Ping32 では次のような方向での連携強化を検討しています。
- キユーピー社内のデータ分類体系や、より詳細なレシピ・品質データモデルと連携させたコンテンツ識別ルールの高度化による、より精緻なデータ分級管理の実現
- 海外拠点を含むグローバル環境での端末セキュリティおよびデータ漏えい防止の統合プラットフォームとしての展開
- 既存の認証基盤・アクセス制御システムとの連携強化による、「ユーザーの属性・端末の状態・データの特性」を組み合わせたきめ細かなアクセスコントロールの推進
本プロジェクトを通じて、キユーピーは食品メーカーとしての品質・ブランドを支える情報資産の保護レベルを一段引き上げるとともに、事業成長とセキュリティの両立に向けた土台を整備しました。Ping32 は、今後も同社の情報セキュリティ向上とガバナンス強化を継続的に支援していく予定です。